六十六歳。夫を見送って、三年。
旅の段取りはいつも夫まかせで、私は「乗って、着いて、食べる」だけの旅人でした。
娘に背中を押されて、生まれて初めて、たった一人で温泉宿へ。
——それなのに、宿に着いたら、自分の名前が、出てこないんです。
予約した宿の名前を書き間違えて、駅から一時間、胸を張って逆に歩く。
部屋を間違えて、見知らぬ殿方の荷物の前で固まる。浴衣は大きすぎて、裾を引きずる。
夕食のお膳まで、隣の席の寺田さんと入れ替わって。
三年ぶりに、誰かの前で、お腹の底から笑いました。
——フロントの脇に並んでいた、古い芳名帳。
三十年前の、夏のページを開いたとき。
そこに、夫の几帳面な字と、私の若い頃の丸い字が、並んで書いてあったんです。
くすっと笑って、最後に少しだけ、ほろっとする。
シニア世代の、もう一度の旅の物語。最後まで、どうぞごゆっくりお聴きください。
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本作は、YouTube コミュニティガイドラインを遵守し、性的満足を目的としない、
芸術的・叙情的な文芸作品(フィクション)として制作した朗読ドラマです。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
※本作の映像にはAIで生成した画像を使用しています。
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